新井さんお薦めの本
『ブラームスはお好き』フランソワーズ・サガン 著
フランスの女流作家サガンによる4作目の長編小説です。『悲しみよこんにちは』で18歳の時にデビューしたサガンは、23歳の時にこの作品を書きました。心情描写に優れた彼女の文章は、読んでいるとだんだん読者である私たちの心を揺さぶり、時には読むことを避けたくなるような気持ちにさせます。
『ブラームスはお好き』についてですが、ここではあえて、ストーリーよりもブラームスのほうを扱いたいと思います。ヨハネス・ブラームスはドイツ出身のロマン派の作曲家です。ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(ドイツ)やルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(ドイツ)と共に「3大B」とも呼ばれます。そんな彼は、生涯独身でしたが、シューマンの奥さんであるクララ・シューマンを始め、いくつかの恋をしました。
作中において、本のタイトルにもなっていますが、主人公のポールは2人の男性から「ブラームスはお好き」と尋ねられます。このセリフの意味を考えながら読むと、より楽しめるかもしれません。
余談ですが、写真で私が持っている新潮文庫の本の表紙絵は、ベルナール・ビュフェというフランスの画家が描きました。彼はサガンだけでなく、フランスの芸術家のジャン・コクトーとの交流でも知られていますが、その彼の作品のみを扱う美術館が私の地元・静岡県にあります。私も行ったことがありますが、静岡県を訪れた際の観光スポットとしてお薦めします。
『月と六ペンス』サマセット・モーム 著
イギリスの作家モームによる傑作です。それなりに裕福で、家族にも恵まれたストリックランドという凡夫が、ある日突然、姿を消します。彼が向かった先はパリ。ストリックランド夫人に彼を連れ戻すよう頼まれた作家の「私」はパリに向かいますが、彼を取り巻く日常が突然失われたように、彼自身もまるで別人のようになっていました。
そんな彼はもう四十路だというのに、画家を目指すといって売れない絵を描き続けます。彼は何かに憑依されたかのように理想を追い求めて描き続けました。そのような彼との交流を「私」が回顧しながらストーリーが展開していきます。人間にとって、幸福に生きるとはどういうことなのか。それぞれに特徴のある魅力的な登場人物の描写にモームの慧眼が光ります。
さて、再び余談ですが、登場人物のストリックランドのモデルは、フランスの画家ポール・ゴーギャンであると言われています。原始的な物の持つ素朴なパワーに魅了されたゴーギャンは、文明的な生活から脱出するためにタヒチに向かい、そこで数多くの彼の代表作が制作され、また原住民の女性との間に子どもをもうけました。
もちろん、ストリックランドとゴーギャンは別人ですが、彼らの生涯は多くの点で重なるようにも思えます。もしかしたらゴーギャンを知ることが、この作品をより深く読むための一助となるかもしれません。
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