上野学長春の光が満ちる今日、ここ日本武道館において、学部卒業生7463名、大学院修了生984名の卒業式を挙行できますことを、学長として、誠に喜ばしく存じます。
卒業生、修了生の皆さん。皆さんは、入学以来、それぞれの場所で努力を重ね、その歩みの先に、この素晴らしい門出の日を迎えました。その真摯な努力に、深い敬意を表するとともに、お祝いの言葉を贈ります。卒業、修了、誠におめでとうございます。
また、これまで、学生生活を物心両面にわたり温かく支えてこられたご家族ならびにご関係の皆さまには、学業の大きな区切りを迎え、お慶びもひとしおのことと存じます。心よりお祝いを申し上げます。さらに、ご多用の中、ご臨席を賜りました多くの皆さまに、厚く御礼申し上げます。
さて、卒業する皆さんに、明治大学の学生と教員という関係で、お話ができるのは今日が最後です。そこで、卒業に当たって、一人ひとりの記憶に刻んでいただきたいことを、二つお話しします。
一つは、明治大学の精神を生きてほしい、ということです。
皆さんが卒業するのは、明治大学です。明治大学は私学です。私学は、単に知識を伝授するために存在しているのではありません。創立者たちがそれぞれの志を実現させるために創設し、存在しているものです。
明治大学は、日本が近代国家への脱皮を図る激動のさなか、岸本辰雄、宮城浩蔵、矢代操の3人の20代の若き法律家によって、「権利自由、独立自治」を世の中に実現すべく、明治法律学校として創設されました。人が人として尊重され、自由な意思によって生きることのできる社会を実現する――その志から、明治大学の歴史は始まりました。それから145年。明治大学は、この建学の精神を守り続けてきました。時に政府の方針と対立しながらも、その旗を下ろすことなく翳し続けてきたのです。
皆さんは、その大学で学び、今日ここに立っています。だからこそ申し上げます。卒業後も、この「権利自由、独立自治」の精神を胸に刻み、明治大学の精神を生きてください。それは言い換えれば、他者を尊び、自らに誠実であり、自らの意思によって社会の中に立つということです。権利自由は、他者の尊重なくしては成り立ちません。同時に、人は自らを尊重し、自らの意思によって立たなければなりません。独立自治です。そして、これらの基盤となるのが、強靭な「個」です。明治大学が「『個』を強くする大学」を理念として掲げているのは、そのためです。
今日の社会には、深刻な対立や複雑な矛盾が噴出しています。民主主義や法の支配といった、人類が長い時間をかけて築いてきたかけがえのない価値でさえ、決して自明のものではないことが、今まさに私たちの目の前で示されています。
このような社会を変えるために必要なのは、自他を尊重する精神、つまり「権利自由、独立自治」の精神です。幸いなことに、明治大学には現役の学生、教職員のほか、61万人を超える卒業生、つまり校友がいます。そこに今日、8447名の皆さんが校友として加わるわけです。一人ひとりが社会の中で「権利自由、独立自治」の担い手となるとき、「知の創造と人材の育成を通し、自由で平和、豊かな社会を実現する」という明治大学の使命の達成に、より近づくはずです。皆さんが、卒業後も明治大学の一員として明治大学の精神を生きてくれることを願っています。
もう一つは、美しい時間を積み重ねてほしい、ということです。
皆さんは入学式の日のことを覚えているでしょうか。あの日から今日まで、本当に多くの出来事があったことと思います。その一つ一つの時間が、皆さんをここまで運んできました。人は節目に立つとき、歩んできた時間を振り返ります。その時間は、確かにそこに存在していました。しかし、戻ることはありません。鴨長明は、「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と記して、時間を川の流れに例え、同じ時間は二度と戻らないという世の無常を語りました。
しかし私は、今日、もう一つの見方を皆さんにお伝えしたいと思います。川は流れますが、川は川として、そこにあり続けています。人の歩みは、流れ去る時間の中に消えるものではなく、川底に砂が堆積するように、静かに積もり、やがてその人を形づくっていくのです。時間は流れるものですが、人生は積み重なるものです。悩みを乗り越えた時間。友と笑い、ぶつかり、理解し合った時間。思うようにいかず、悔しさを味わった時間。挑戦し、自分の弱さを知った時間。それらの美しい時間は全て、地層のようにあなたの中に積み重なり、今日のあなたを形づくっています。
今、申し上げたように、明治大学は「『個』を強くする大学」という理念を掲げています。ここで、強さとは、言うまでもなく、誰かに勝つことではありません。失敗しても立ち上がる力。違いを受け止める広さ。自ら問い、自分の頭で考え、選び、歩み出す勇気。それこそが強さです。そしてその強さは、特別な瞬間からではなく、日々の小さな努力や誠実な日常の選択、それらの積み重ねの中で、静かに育まれていきます。あなたはすでに、その時間を生き、自らの「個」を強くしてきました。そのことに自信を持ってください。
これからの人生にも、多くの迷いや困難が訪れるでしょう。けれども忘れないでください。あなたが、明治大学で今日まで積み重ねてきた時間は、決して消えることはありません。努力も、失敗も、友情も、後悔も、全てが皆さんを支える確かな力となります。
あなたの前には、まだ誰も歩いたことのない時間が広がっています。そこにどのような足跡を刻むのか。それはあなた自身に委ねられています。自分を信じ、これまで積み重ねてきた時間を力として、あなたらしい歩幅で人生を歩んでください。これからの人生の歩みの中で、節目に立って、ふと振り返る日が訪れたとき、胸を張ってこう言える美しい時間を重ねてください。「あの時間があったから、今の自分がある」と。
明治大学の精神を生きること。美しい時間を積み重ねること。この二つのことを、今日が明大生として最後の日である皆さんにお伝えして、私の告辞といたします。
皆さんの前途に幸多からんことを心よりお祈り申し上げます。卒業、おめでとう。


