柳谷理事長本日ここに、卒業ならびに修了を迎えられる皆さん、このたびは誠におめでとうございます。明治大学で研鑽に励まれ、それぞれの課程を修めて学位を取得されたことに対し、深く敬意を表します。また、これまで卒業生を支えてこられたご家族やご列席の皆さまにも、心からお慶びを申し上げますとともに、本学へ賜りました多大なるご理解とご支援に対しまして、学校法人明治大学を代表し、厚く御礼を申し上げます。
ところで、皆さんは「バウンダリースパナー」という言葉をご存じでしょうか。直訳いたしますと、「境界や壁を越える人」という意味になりますが、近年は組織や立場、そして専門分野といったさまざまな境界や壁を乗り越え、新しい価値を創造する人材のことを表す言葉として注目が集まっています。例えば、皆さんも良くご存じのグローバルカンパニーであるソニーグループでは、社員に対して「バウンダリースパナーたれ」と度々呼び掛けています。では、なぜ今、この「境界や壁を乗り越える力」が求められているのでしょうか。
現代社会に目を向けますと、AIは急速に進化を続け、ChatGPTに代表される生成AIは瞬く間に身近なものとなり、皆さんの日常生活や学習においても活用の機会が増えてきていることと思います。また、ビジネスの世界では、人々の仕事を代替するAIエージェントと呼ばれるシステムや、機械を自律的に制御するフィジカルAIの実用化が進み、本年1月にラスベガスで開催された世界最大級の先端技術見本市「CES」では、フィジカルAIを使った最新の人型ロボット「ヒューマノイド」が大きな話題となりました。
このような革新的な技術によって私たちの生活は劇的に利便性を増していく一方、現下の世界情勢においては、中東をはじめ世界各地で絶えることなく繰り広げられる戦争や紛争、そして国際秩序の混乱が、資源価格や為替市場など経済にも大きな影響を与え、国際社会には不透明感と緊張感が増しています。
このように未来予測が困難で世界の分断や複雑さが一層増す時代において、私たちが直面する多岐にわたる課題を解決していくためには、既存の価値観や枠組みにとらわれることなく、多様な視点を持って他者と協働し、新しい価値を生み出していく力、すなわち「バウンダリースパナー」がこれからの社会に強く求められているのです。
もちろん、今この場で「自分はバウンダリースパナーになることができる」と自信を持って答えられる方は多くはないかもしれません。しかしながら、本学での大学生活を振り返ってみてください。サークル活動や部活動では世代を超えた仲間と目標のために力を合わせ、ゼミや研究室では異なる意見と向き合い議論を重ねてきました。アルバイトでは社会人や顧客といった多様な立場の人々と関わる経験を積み、留学を経験された方は言葉や文化の壁を越えて学びそして友情を築いたことでしょう。こうした経験の一つ一つを通じて、皆さんはバウンダリースパナーとして必要な力を育んできたのです。
卒業後、皆さんが歩む新たな環境においては、幾度となくさまざまな境界や壁が現れます。組織の壁、文化の壁、時には自分自身の限界という壁に直面することもあるかもしれません。
しかし、その壁の前で立ち止まるのではなく、どうか勇気を持って「前へ」と一歩踏み出してほしいのです。主体性を持って境界や壁を越えるその一歩こそが、新しい未来を切り拓く力となるのです。これこそ、本学が理念として掲げる「『個』を強くする」ことに他なりません。また、世界で起きているさまざまな問題や課題に当事者意識を持ち、今後社会はどうあるべきか、その実現のために自分自身は何をすべきなのか、能動的に考えを巡らせてください。そして、国や人種の違いを超えて協調し、人類と地球環境との調和した未来を創造することに、皆さん一人ひとりがバウンダリースパナーとして貢献されることを切に願っています。
明治大学におきましても、2031年に迎える創立150周年記念事業等を通じて各キャンパスを整備し、教育研究環境をより一層充実させ、そうした人材を育成してまいります。
結びになりますが、本学の在学生は大学院生も含め現在約3万7000人おり、そのうち奨学金を利用している学生は、延べ約1万6000人に上ります。こうした学費面はもちろんのこと、学内の各種施設整備や体育会各部の活動などについても、校友やご父母をはじめとした多くの方々のご寄付によって支えられております。本日卒業される皆さんも、今後社会でご活躍いただき、その暁には、未来の担い手となる後輩学生たちへ手を差し伸べ、寄付という名の紫紺の襷をぜひつないでいってくださるようお願いいたします。明日の明治大学を創るのは、明日の皆さんなのです。
本日の新しい門出に際し、皆さんの前途に幸多きことを心より祈念し、祝辞といたします。ご卒業、誠におめでとうございました。


