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2024.11.20

塩害対策やアンチエイジングに期待「アッケシソウ」の新増殖法を発見――農学研究科の大学院生ら黒川農場研究チームの挑戦

農学部
黒川農場でアッケシソウの人工光栽培を研究している越田さん

明治大学黒川農場フィールド先端農学研究室の大学院生らが発見した「アッケシソウ」の新増殖法に関する研究が、イギリスの園芸学術誌と朝日新聞に掲載された。

アッケシソウは、海水と淡水の混ざり合う塩生湿地に自生し、通常の植物が生育できないような高い塩濃度に耐えられる塩生植物。海外では「シーアスパラガス」などの呼称で野菜として食用利用されており、近年の研究から、アンチエイジングや抗がん作用などの効果が期待できる栄養成分を含むことが明らかになってきている。

論文掲載情報

本論文は、イギリスの園芸学術誌「The Journal of Horticultural Science and Biotechnology」の電子ジャーナルにオンライン公開され、公開から約2カ月で、過去12カ月以内にこの学術誌に公開された中で最も読まれた論文の第3位となった(11月14日現在) 。

論文題目 Cutting propagation of Salicornia europaea L. and the optimum NaCl and nutrient solution levels for its rooting and growth」(越田薫子・川岸康司・伊藤善一)
掲載日 2024年9月13日
アッケシソウ栽培ハウスで取材を受ける越田さん

私たちが普段口にしている作物は、ほとんど全てが淡水(真水)でしか栽培することができないが、地球上の水資源は97%が海水であり、食料生産に利用できる淡水はわずか0.01%といわれている。

気候変動や人口増加に伴い、食料および淡水不足が懸念される今日、アッケシソウはその強い耐塩性および健康機能特性から、将来の有望な食料資源として注目を集めている。しかし、アッケシソウは種子が発芽しにくく、また生育にばらつきがあるため、これまで安定的な増殖が困難だった。

農学研究科の越田薫子さん(博士前期課程2年)、農学部の伊藤善一専任講師、黒川農場の川岸康司特任教授は、アッケシソウの新しい増殖法として「挿し木増殖法」を提案し、最適な条件で栽培をすれば、生存率が、塩濃度1.5%(海水の半分に相当)で90%以上、海水と同濃度でも65%以上を維持することを明らかにした。

この方法であれば、種子の発芽から生育までの栽培管理が難しい初期生育期間や低い増殖効率を克服し、かつ淡水の使用量を大幅に削減し、簡単に短期間での増殖が可能となることから、今後のアッケシソウの安定生産に大きく貢献することが期待される。

アッケシソウの人工光栽培実験の様子

新たな発見のきっかけは、英語の授業だった。アッケシソウ研究の発案者である越田さんは、農学部1年次の英語の授業で「極限状態でも生きられる生物」というテーマのプレゼンテーション課題を課され、資料を収集することになった。

世界でまん延する塩害が人々の食糧生産を大きく脅かしていることを他の授業で学んでいた越田さんは、塩生植物などに関する海外の英語論文を探し、アッケシソウの存在を知った。「この植物なら世界を救うことができるかもしれない」と期待を抱いたが、同時に、栽培が難しい植物であることも分かった。

その後、伊藤専任講師のフィールド先端農学研究室に入室し、アッケシソウの栽培を開始。伊藤専任講師と試行錯誤の結果、見いだしたのが「挿し木増殖法」だった。

現在、地球上には塩害によって栽培ができない土地が9億5400万ヘクタールあり、アッケシソウのような塩生植物を用いた「塩水農業」により、新たに1億3000万ヘクタールの農地が確保できるという概算がある。この「挿し木増殖法」によってアッケシソウの安定的・効率的な生産が可能となれば、将来的に塩水の活用や淡水使用量の削減、塩害土壌の活用につながることが期待できる。

今後は、野菜としての「シーアスパラガス」の生産体系を構築し、より効率的な増殖技術の開発を進め、国内外でのアッケシソウ利用拡大を図る。

分析の様子

<フィールド先端農学研究室(伊藤善一専任講師・黒川農場)>
野菜の高品質・高収量生産技術の開発に関する研究を行っている。明治大学のスクールカラーである「紫紺」にゆかりのある「紫根染」の染料となる染料植物「ムラサキ」に関する研究も行っている。アッケシソウとムラサキは、共に日本の環境省レッドリストでは、絶滅危惧種に指定されているが、これらの植物をはじめ各種野菜の栽培研究に挑んでいる。

研究内容掲載情報

本研究内容は、朝日新聞(全国版、北海道版、朝日新聞デジタル)に掲載された。

朝日新聞(全国/首都圏・関西圏)

掲載日:2024年10月21日(月)夕刊
記事タイトル:レアな植物、世界を救う? アッケシソウ、芽吹いた新増殖法 明大院の研究チーム

朝日新聞(北海道)

掲載日:2024年10月18日(金)朝刊
記事タイトル:世界救う?アッケシソウ、芽生えた増殖法 明大院チームが「挿し木」研究

朝日新聞デジタル

掲載日:2024年10月6日(日)
記事タイトル:コストコで手に入れた草、塩害の世界救う? 大学院生が新増殖法発見