
明治大学の短期留学プログラムである「タイで学ぶ!! 食と私たちのサステナビリティ」に参加された、比嘉麻美子さん(農学部3年)と三浦琉菜さん(法学部3年)のお二人にお話を伺いました。お二人は、現在、タイでの学びを生かして、神奈川県秦野市にて耕作放棄地を再利用する活動に取り組まれています。お二人の活動の実態についてインタビューしました。
「タイで学ぶ!!食と私たちのサステナビリティ」とは?
このプログラムは、文部科学省から採択された「グローバルシナジープロジェクト」の一環として、企画されたものです。オンラインでの学びと実際の留学を組み合わせ、より効率的な学びを目指すプログラムとなっています。本プログラムでは、講義や視察を含む事前研修、タイの起業家や学生との国際交流や農体験をしながら学びを深める現地研修、研修での学びを振り返る事後研修を行います。そして「持続可能な社会を構築するために自分ができること」を見出すことを最終目標としています。明治以外にも、立教、法政、関西大生も参加が可能で、毎年、定員を上回る応募がある、人気留学プログラムの一つです。

耕作放棄地を見直し、新たな活用法を考える活動とは?
お二人はどこでどのような活動をしているのですか?
神奈川県秦野市の耕作放棄地(※1)だった場所で有機農業に挑戦しているフレンチシェフの白井寛人さんという方と、持続可能な農法を実現するための活動を行っています。
※1 耕作放棄地:以前耕作されていた土地が、過去1年以上作付けされず、農家の方などが耕作する予定のない土地
なぜこの活動を始めたのですか?
比嘉 私たちは、2024年2月に、短期留学プログラムである「タイで学ぶ!! 食と私たちのサステナビリティ」に参加しました。このプログラムの事前研修で、白井さんが講義をしてくださったことが、現在の私たちの活動のきっかけです。その講義の中で、白井さんから「耕作放棄地には良い土壌があること」「テロワール(※2)をベースに里山を築くことが大切であること」を学び、その考え方に共感したことで、「耕作放棄地を見直し、新たな活用法を考える活動」に取り組みたいと思いました。
※2 テロワール:自然環境に適した食物を育てること
三浦 白井さんが事前研修の際に「ぜひ私の農場で一緒に活動しない?」と声を掛けてくださりました。タイで学んだ持続可能な農法を実践してみたいと思ったことやタイの研修を通じて、「食のサステナビリティだけでなく、人のサステナビリティも大切にすることも、サステナビリティの一つなんだ」と考えるようになったことで、活動に取り組みたいと思うようになりました。
白井さんからお声掛けくださったのはなぜでしょうか?
三浦 事前研修の際にプレゼンテーションをする機会があったのですが、持続可能な農法として「カバークロップ」という考えを提案しました。カバークロップとは、土壌の改良のために植えられる作物のことです。カバークロップは微生物の餌になったり、土中にミミズなどの虫が集まったりすることで土壌を改善すると言われています。
このことから、私たちは「農薬や化学肥料の役割をカバークロップに任せることで環境汚染を防ぎ、生態系を守ることができるのではないか」や「カバークロップが大気中の二酸化炭素を吸収することで、地球温暖化などの気候変動を緩和できるのではないか」と考えました。白井さんは有機農業や里山保全をはじめとした地域の生態系を守る活動を行っているため、こうした私たちの考えに賛同してくださり、今回の活動実施に至りました。
タイでサステナビリティを学ぶ。現在の活動にもつながる学びを得られた
タイでのサステナビリティプログラムでは、具体的にどのような内容を学びましたか?
三浦 「環境」「食料安全保障」「フードロス」の観点から見た、持続可能な食の在り方を学びました。持続可能な食の在り方とは、「今後どうしたら人々が安定的に食を得ることができるのか」ということです。
比嘉 「ルーフトップファーム」という農場について学びました。タイの都市部であるバンコクでは、農業を行うための土地が比較的少なく、土地をいかに有効活用できるかが重要です。ルーフトップファームは、ショッピングセンターの屋上の土地を有効活用して、農業を行っている場所です。食べかすを使用して、堆肥にする事業を行っており、「土地の有効活用」「環境に配慮した農法」の観点から、サステナビリティを実現していることを学びました。

タイと日本では、「農」や「食」で何か共通点はありましたか?
比嘉 タイと日本で農業という観点において共通していることは、少子高齢化です。日本では農業に従事する人が減ってきている現状がありますが、タイでも同様の傾向にあります。農業を担う若者を増やす方法や1農家あたりの収穫量を増やす方法を考えていく必要があります。
三浦 私は食文化が豊かな点が共通していると思います。豊かだからこそ、この食文化を残していくために、持続可能な食の在り方をみんなで考えていくことが大切だと思っています。

タイのプログラムの中で、思い出深い、または楽しかった体験はどのようなものでしたか?
三浦 ピンファーファーム というグリーンツーリズム(※3)を行っている農場が特に印象に残っています。ちょうど私たちがピンファーファームを訪れた際に、地域住民の方がマルシェを開いていました。野菜や果物、お米などの食べ物だけでなく、家畜としての動物も売られていたり、陶器づくりの体験をすることができたりと、活気ある雰囲気だったので、よく覚えています。
※3 グリーンツーリズム:自然が豊かな地域で、農業体験をしたり、現地の人と交流したりして楽しむ活動のこと
比嘉 私もピンファーファームが印象に残っています。地域住民の方が運営しているレストランがありました。農業を軸として一つのコミュニティが形成されていると感じ、とても興味深いと思いました。

自然と触れ合い、人とつながる。農業体験を通じて生まれた、人との出会い
神奈川県での活動の中で、どのようなところに面白さを感じますか?
比嘉 頻繫に農場を訪れることで、農業の1年を見ることができるのが楽しいです。田植えから収穫までを見届けられたり、大豆がイノシシに食べられたりと農業のリアルを体感できるところに面白さがあります。
三浦 自然豊かな環境なので、たくさんの生き物がいるところに魅力を感じます。また、白井さんの畑は山に囲まれていてのどかな場所なので、ゆっくりと時間が過ぎていくような気分になり、とても落ち着きます。住んでいたわけではないのですが、どこか懐かしさを感じる、安心するような場所であるところが良いところです。
神奈川県で実際に活動してみて、新しく気付いたことや発見したことはありますか?
三浦 自然に心を癒やす力があることに気付きました。月に1回ほどのペースで畑を訪れているのですが、行く度に心がリセットされるような感覚になります。また、「農業が人をつなげる」ということにも気付きました。白井さんはくろつけ(※4)や田植えといった田んぼのイベントを定期的に開催されているのですが、私たちがイベントに参加した際に、初めてお会いした方と農業を通じて親睦を深めることができました。農業が人をつなぐ架け橋になると気付きました。
※4 くろつけ:田んぼの土手が崩れてしまわないように、泥で畦の側面を補強すること
比嘉 私は「神奈川県の耕作放棄地が、新たな可能性を秘めているのではないか」ということに気付きました。耕作放棄地はずっと手を加えられていない土地なので、化学肥料がなく土壌微生物が多いことから、良い土になっていると言われています。今後、人口が多く都心部に近い神奈川県の耕作放棄地を利用することで、グリーンツーリズムなどの観光の側面で何かできることがあるのではないか、と気付きました。

これまでのタイや神奈川での体験から、具体的にどのようなご自身の成長や変化を感じましたか?
三浦 「次にいつ行く?」とメンバーに声掛けするなど、自分から積極的に行動するようになりました。周りのメンバーにも支えてもらいながら、今行っている活動を率いることができていると思います。
比嘉 私は、人とのつながりの大切さを改めて意識するようになりました。タイでの活動の後も、タイで交流した学生と連絡を取ったり、神奈川県での活動でも多くの人と関わったりと、人とのつながりが大切であると実感しました。最近では、気になる活動をされている方に自分から話を聞きに行くなど、より行動的になりました。

多くの人に農業を体験してもらうイベントを開催したい
今後、神奈川県での活動にどのように取り組んでいきたいと思っていますか?
比嘉 HSL(秦野サステナビリティラボ)という組織で活動しているのですが、今年は活動計画を立てるのに時間がかかってしまい、計画したカバークロップの実践ができなかったので、来年はカバークロップの実践を着実に進めていきたいと考えています。また、白井さんがされているようなイベントを私たちで開催できたらなと思っています。
三浦 農業を体験してみたい人に、その機会を提供できるようなイベントをみんなで開催できればと思っています。イベント開催のために、「まず私たちが何をしているのか」「どのような組織なのか」をいろいろな人に知っていただく必要があるので、SNSでの情報発信に力を入れていきたいと考えています。
最後に、メッセージをお願いします!
三浦 私はタイの事前研修の時から、「人とのご縁を大切に」という考えの下、多くの人と関わってきました。そして今、まさか実際に農家の方と一緒に活動させていただけるとは思ってもいませんでした。私は法学部ですが、こうした人とのつながりから、自分が想像もしていなかった活動に取り組むことができています。「人とのご縁を大切にすること」とタイのプログラムに応募しようと思えるような「思い切りの良さ」を大切にしてほしいです!
比嘉 私は大学入学時に、さまざまなことにチャレンジすることを目標に入学しました。いろいろなことにチャレンジする中で、自分に合う・合わないことがあると思います。ですが、チャレンジしてみなければ、その活動が楽しいかどうかは分からないので、少しの「やってみたい」といった気持ちや「心が揺れ動く瞬間」を大切にすると、最高の大学生活が送れると思います!
現在の私たちの活動は、タイのサステナビリティプログラムの事前研修での白井さんとの出会いがきっかけではありますが、タイの研修に参加していない学生の方にも、ぜひこの神奈川県での活動に参加してほしいです!
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