
政治経済学部1年の加藤さんは、学業に励みながら、知的障がいのある人々に寄り添った洋服や小物などを制作し、彼らの生活の選択肢を広げるためのプロジェクトを行っています。何事も主体的に、そして全力で取り組んでいる加藤さんに、明治大学での学びや課外活動、学生生活についてお聞きしました。
高校時代の「起業体験」が、自分がやりたいことを考えるきっかけに
明治大学を選んだ理由や、政治経済学部を選んだ理由を教えてください。
私は愛知県出身で、高校生の頃から上京したいと考えていました。最初は漠然と「東京は楽しそう」と思っていただけでしたが、その気持ちがより強くなったのは高校3年生の時です。名古屋市が主催する「スタートアップ・ユースキャンプ」という、高校生が起業体験できるプロジェクトに参加したことがきっかけでした。
プロジェクトでは、参加者がグループに分かれてグループごとにお金が渡され、そのお金を増やす方法を考えたり、自分がやりたいことをビジネスにする方法を考えたりしたのですが、驚きや発見の連続でした。そこで出会った方々から東京で行われている面白そうなプロジェクトなどをたくさん教えてもらい、「もっといろいろなことにチャレンジしてみたい!」と思ったことが、上京する決め手になりました。
明治大学を選んだのは、施設がきれいなことはもちろん、自ら考えて学ぶ主体性を重視しているところに引かれたからです。また、私は小学生の頃に政治家になりたいと考えていたこともあるほど、政治や経済の分野にもともと興味を持っていたので、政治経済学部を選びました。
政治経済学部での学びについて教えてください。
入学前から魅力を感じていたのが、政治経済学部の1・2年次を対象に開講される文化・社会・言語などをテーマとしたゼミ「教養演習」です。私は今、その中の「中小企業論」をテーマとする科目を履修しており、特に面白さを感じています。授業では「中小企業白書」に出てくるグラフの見方や活用の仕方、論文の書き方などの基礎的なことについて学んでいます。
この授業では秋学期から本格的に論文を書き進めていく予定で、私は「中小企業の障がい者雇用」をテーマにしようと考えています。私には、知的障がいのある弟と福祉関係の仕事をしている母親がいて、これまで障がい者雇用について当事者目線で見てきました。しかし、障がい者の雇用自体が進んでいないことや低賃金であることなど、課題ばかり感じているのが現状です。そのため、もっと客観的な視点から考えてみたいと思い、このテーマを設定しました。
春学期から論文を少しずつ書き始めたのですが、論文の書き方や内容は授業中にみんなの前で先生から添削されるので、緊張することもあります。しかし、先生の指摘はとてもためになりますし、自分の分からないことが少しずつ分かるようになっていくのは面白いです。
この授業を通して、「自分で考えながら学んでいくこと」の大切さを実感し、大学で学ぶ意識が少し変わりました。今は、社会に出てから自分がやりたいと思うことを実践できるような基礎力を身に付ける大切な時期だと思って取り組んでいます。
多様な人とつながりながら、障がいのある人々の選択肢を広げるプロジェクトに取り組む
現在取り組まれているプロジェクト「SAFEID」について教えてください。
「SAFEID」は、知的障がいのある人々に服を選ぶワクワクを提供し、ファッションをフックに生活の選択肢を広げることを目的として立ち上げたプロジェクトです。具体的には、知的障がいのある人々のライフスタイルに沿った洋服や小物の制作を行っています。
そもそもこのプロジェクトを立ち上げようと思ったのは、知的障がいのある人たちの生活の選択肢が限られていて、多くの人がそのことに気付いていないと感じていたからでした。
例えば、知的障がいのある私の弟は、中学生の時に吹奏楽部に入部したがっていたのですが、弟が在籍していた特別支援学級の生徒たちには部活動の入部届が配布されませんでした。母親が学校に相談し、結果的には入部することができたのですが、こうした出来事を間近で見ていたので、「もっと障がいのある方の選択肢を広げられるような活動がしたい」と思いました。
高校時代に参加した起業体験のプロジェクト「スタートアップ・ユースキャンプ」をきっかけに課題解決の方法を本格的に考え始め、そこで出会った方にアドバイスをいただきながら、まずはファッションを切り口に彼らの生活の選択肢を広げようと考えました。そこから、身体的ハンディキャップと知的ハンディキャップの両方にアプローチする服の開発を通して、「普通に服を買って、普通におしゃれをして、普通にお出かけする」ことの実現を目指し、プロジェクトを少しずつ形にしてきました。
そして2023年の夏に、プロジェクトが渋谷キューズの「QWSチャレンジ(※1)」に採択されたことで、活動をさらに前進させることができました。

プロジェクトでは現在、よだれかけになるベストやつなぎの試作などを行っています。ベストは、大人でも着ることができるおしゃれなデザインにこだわりながら、食べこぼしを受け止めるポケットが取り外せるなど機能面にもこだわっています。つなぎも、着替えやトイレが楽にできるデザインにして、生活の中にあるストレスを少しでも減らせるようなものを目指しています。
今は、作業所で働く障がいのある方々にヒアリングさせてもらったり、実家で弟の様子を見たりしながら、どのような機能があると良いのかを考え、デザイナーさんと一緒に試行錯誤しながら取り組んでいるところです。まずは、これらを完成させることを目標にしています。

※1 「渋谷キューズ」:「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」をテーマとした会員制の共創施設。企業や自治体、個人など、多様な人たちが参画し、日常の中のあらゆる問いからプロジェクトの立ち上げに挑戦している。渋谷キューズが公募する「QWSチャレンジ」に採択されると、渋谷キューズのプロジェクトスペースを3カ月間無料で利用したり、特別プログラムの体験などができる
プロジェクトの中でこれから力を入れたいことを教えてください。
これから定期的に開催したいと考えているのが、知的障がいのある人に古着をコーディネートするイベントです。私自身も古着が好きで、多様なサイズがあるため、知的障がい者の体型に合うものも見つけられるのではと思って始めました。
先日は、知的障がいのある女の子と一緒に和泉キャンパスからほど近い下北沢駅の古着屋へ行きました。サイズや素材を相談しながら一緒に古着を選んでみたのですが、ピッタリなものを探すことは、宝探しのような感覚でとても楽しく、完成したコーディネートを見た女の子も「これを着てお出かけしたい!」と喜んでくれました。私が届けたかった思いが相手に届いたと実感できた瞬間でもあり、とてもうれしかったです。

という加藤さんの思いで始めた古着コーディネートのイベントの様子
また、最近、明治大学のダンスサークルで古着のプロジェクトに取り組む先輩に出会い、「何か一緒にできたらいいね」と話しています。仲間を見つけるためには、とにかくいろいろな場所に足を運ぶことが大切だと思っています。特に渋谷キューズのような意欲的に何かに取り組んでいる人たちが集まる場所に行くと、「どうしたらそのようなことを思い付くのだろう」と驚くくらい、面白いことを考えている人にたくさん出会えると感じています。
今後もさまざまな人とつながりながら、プロジェクトを進めていきたいです。
大学4年間をかけて、福祉をもっと身近でポップなものに!
現在の目標や、大学を卒業するまでにやりたいことを教えてください。
これからの大学生活を通じて、福祉をもっと身近でポップなものとして皆が関われるようにしたいです。
具体的には、服や食べ物、音楽が楽しめるインクルーシブ(※2)なフェスを、私の地元である愛知県のシャッター街で開催してみたいと考えています。地域住民はもちろん、近くに養護学校や就労支援施設があるので、障がいを持つ方たちにも協力してもらってお店を出したり、名古屋のヒップホップ文化を生かしてさまざまなアーティストを呼んだり、いろんなことがごちゃまぜになった楽しい空間を作ってみたいです!
そして、学業と両立しながら大学生のうちに、知的障がい者向けのアパレルブランドを立ち上げて起業することも目標です。現在のプロジェクトは、利益を出すことを目的にせず、楽しさを優先しているのですが、実際に事業化するとなるとそうはいきません。
ちょうど縁あって、2023年11月から渋谷キューズで出会った方の会社で働かせてもらえることになり、そこでビジネスやマネタイズについて基礎から学んでいきたいと考えています。その中で、楽しさや幸せを提供しながら、事業として続けていくための方法を模索したいです。
また、明治大学の中にも、面白いことを考えている人がたくさんいると思うので、より多くの人とつながりたいと思っています。服が好きな人、システム作りができる人など、一緒にプロジェクトに取り組んでくれるような仲間をぜひ見つけたいです!
※2 インクルーシブ(inclusive):「包括的な」、「全てを包み込む」を意味する言葉。さまざまな背景を持つあらゆる人が排除されないこと
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