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2025.06.01

『ブリューゲルの“劇場” 罪・祝祭・諺』(森洋子 著、中央公論美術出版)

森洋子 著『ブリューゲルの“劇場” 罪・祝祭・諺』(中央公論美術出版)

16世紀南ネーデルラントの画家ブリューゲルは、農民生活の描写を通じた含蓄に富む作品を生み、そこにはにぎやかな“劇場”のように多彩な人物が登場する。本書は明治大学にささげられた研究書で、この画家の研究の世界的権威である著者による、近年の研究成果の集大成である、と書いてしまうと何かとても難しそうだが、読者は読み進めるうちにどんどん引き付けられていく。それは、著者の研究にかける情熱と尽きぬ好奇心が読者の手を引いて、その深みに導き入れてくれるからだ。そして読者はいつの間にか、この画家だけでなくこの先導者のファンにもなっている。

代表作『バベルの塔』などの刺激的な図像解釈から始まり、次の筆者の十八番ともいえる江戸時代の諺画との比較も興味深い。最後は博物誌やリヒテンシュタイン侯家コレクションなど研究の周辺を扱っており、豊富なカラー図版による魅力的なエンディングである。

多くの対象を扱う中に真実が浮かび上がってくる――。それは著者の研究とこの画家の共通点であるような気がする。

評・宮澤 政男 文学部兼任講師/Bunkamuraザ・ミュージアム シニアアドバイザー(著者は名誉教授)