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2025.07.01
『神聖ローマ帝国全皇帝伝』(菊池良生 著、河出書房新社)
菊池良生 著『神聖ローマ帝国全皇帝伝』(河出書房新社)
菊池良生氏の『神聖ローマ帝国全皇帝伝』という実にコンパクトな書物が刊行された。神聖ローマ帝国が輩出した54人の皇帝の小伝を、一冊の新書内に描き出すという野心的試みを実現された氏の快挙を寿ぎたい。歴代皇帝を一望のもとに見渡すことのできる目録的評伝を提供してもらえたわけだから、読者としてこれほどありがたいことはない。
氏の語りは歴史小説の一コマを髣髴とさせる叙述ぶりで、その場面に居合わせているような臨場感を醸し出している。本書は著者の目がとらえた神聖ローマ帝国歴代皇帝のスケッチであり、そのスケッチを重ねることで歴史の舞台を闊歩する皇帝たちの肖像を浮かびあがらせる。
それにしても著者の旺盛な著作活動には瞠目させられる。ひょっとすると氏は『ガリヴァー旅行記』で描かれたような書物制作機械を密かに所有し、それを操るゴーレムを随えて日夜執筆に励んでいられるのではないかと疑いたくなるほどだ。今度お会いしたら思い切って訊ねてみたい。そういえば、似たような類いの噂がまことしやかに囁かれたプラハの皇帝もいたのではなかったか。
評・井上善幸 理工学部教授(著者は名誉教授)