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2025.07.01
『都市空間を歩く 日本近代文学と東京』(佐藤義雄・松下浩幸・長沼秀明 著、翰林書房)
佐藤義雄・松下浩幸・長沼秀明 著『都市空間を歩く 日本近代文学と東京』(翰林書房)
文学作品にある空白や欠落を読者が想像力で埋めることと、かつての街並みを古い地図や案内記を頼りに歩くことには、共通点がある。本書はそれを〈地霊〉という観点から提示してくれる。
本書は、明治大学リバティアカデミーの講座「都市空間を歩く 近代日本文学と東京」の講義ノートを基に構成されている。13人の作家の文学作品に描かれた〈場所〉を実際に歩くことで、都市の〈地霊〉を復原していく。「〈場所〉こそが物語を生み出す土台であり、同時に〈場所〉という舞台こそが人を動かす」。〈場所〉はそこに住む人、訪れる人を包摂し、あるいは排除する。〈場所〉が持つ力そのものが、文学作品を生み出していくと言っても過言ではない。
著者たちが訪れた〈場所〉を全て現代の地図に当てはめると、お茶の水橋・万世橋・神田・神楽坂・小石川・千駄木・日暮里・上野公園(上野図書館)・大手町・丸の内・日本橋・銀座・日比谷・赤坂氷川町・青山・目白・学習院・向島と、本学のある駿河台を中心に、渦巻き状に東京という都市空間を歩いていることがわかる。本学で、近代文学と近代都市・東京との関係を、フィールドワークをいとわずに学ぶ者にとって、必読の一冊である。
評・能地克宜 文学部准教授(著者は上記の掲載順に、名誉教授・農学部教授・文学部兼任講師)