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2025.08.01
『野生の教養II 一人に一つカオスがある』(岩野卓司・丸川哲史 編、法政大学出版)
岩野卓司・丸川哲史 編『野生の教養II 一人に一つカオスがある』(法政大学出版)
教養は危機に瀕している。一方、現代は危機の時代だ。惑星規模の生態学的危機と人間社会の極悪非道。どちらを向いても絶望の壁が立ちはだかる。それに抗して希望をつくり出すための実践的な知識と考え方はどこにあるのか?「教養」の再定義が必要だ。それには明治大学大学院「教養デザイン研究科」に集う教員たちによる本書が、導きの糸となる。
画期的な論集『野生の教養』の続編だ。専門知から一歩を踏み出すことで他の研究領域との対話を生み、得られた認識の閃光をもって社会を見直す。そのための合言葉としてこの巻は「カオス」を採用した。すなわち混沌。誰もが抱え込む混沌が思いがけないかたちで呼び交わすとき、新たな生の秩序がうまれる。破壊と創造が一致し、われわれを束縛していた思い込みが崩れる。この社会=文化には、別の在り方、運営法もあるはずだ。
たとえば「bolo’ bolo」という言葉を知り「ヤブ」の力を思うだけでも、本書は人生を変えうる。創造と自由は、常にカオスとの「際」にある。ぜひ一度手に取ってみてほしい。読書会で取り上げるには最高の本。
評・管啓次郎 理工学部教授(編者は本記事の掲載順に、法学部教授・政治経済学部教授)