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2025.10.01
『最高裁長官 石田和外 日本的司法を定礎した天皇主義者』(西川伸一 著、岩波書店)
著者は政治学者である。生々しい実体験に基づく元裁判官の著作と異なり、石田和外の個人史を軸に、実証的分析によって「日本的司法」の形成過程を生き生きと描き出す。
石田はNHK連続テレビ小説「虎に翼」(2024年前期放送)の桂場等一郎のモデルらしい。桂場と同様、石田も「司法権の独立」にこだわった。ただし、石田は保守的な天皇主義者である。明治憲法下では「天皇ノ名ニ於テ」司法権を代行することが裁判所の「独立」のよりどころだった。日本国憲法下では民主的な政治権力からの「独立」が必要となる。「天皇ノ名」は「国民全体」と同じと石田は考え、「国民の信頼」「公正らしさ」を旗印に外部からの介入に先手を打って自主規制を行い、司法官僚による内部統制に裁判官が拘束される「日本的司法」の根幹を築いた。
はて?「裁判官の独立」をないがしろにする「裁判の独立」とは?本書を読んで「学問の独立」が気になり、「権利自由」と「独立自治」がセットであることに思いをはせた。
評・相原耕作 政治経済学部専任講師(著者は政治経済学部教授)