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2026.08.01

『返さない借り つながる贈与 資本主義を克服する、新しい共同性』(岩野卓司 著、朝日新聞出版)

岩野卓司 著『返さない借り つながる贈与 資本主義を克服する、新しい共同性』(朝日新聞出版)

本書は、贈与の入門書であり、新境地を開いた快著である。

従来の贈与研究は、人間関係を金銭的価値に還元する資本主義を相対化する狙いから、金銭を介さない財やサービスのやりとりに注目し、贈与にはお返しの義務が伴うこと、その背後には「もらうばかりでは申し訳ない」という借りの感覚があることを明らかにしてきた。本書は、この借りの感覚が、債務返済を迫る金融の論理や、財の取得には対価が伴うという等価交換の原理へと回収され、資本主義を強化してきたという逆説を指摘する。

このアポリアを脱するために本書が着目するのは、贈与を受けた者が贈り手に返すのでははく、第三者への贈与を促される事態である。そこで生まれるのは、債務者でも返済者でもなく、新たな贈与者だ。こうして贈与者が連鎖的に創出される過程こそが、資本主義を乗り越える共同性を可能にすると著者は展望する。

本書は贈与を、特定の対象に「返す」負債ではなく、まだ見ぬ誰かに「回す」バトンとして捉え直す。この思想的贈与物が多くの読者の手に渡り、新たな贈与の循環を促すことを期待したい。

評・佐久間寛 政治経済学部准教授(著者は法学部教授)