学生のウェルビーイングのために(理事 矢ヶ﨑淳子)
かつて学部生としてカナダのモントリオールにあるマッギル大学に留学していた頃、親友に誘われ、毎日25メートル屋内温水プールで泳ぐことが習慣となっていた。厳しい勉強のストレス緩和のためか、水泳やジョギングを定期的に行う学生が多かった。
しばらくして、大学院生として留学したカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でも屋外プールを見つけて再び泳ぐようになった。留学して間もない9月のある日、キャンパス内で見つけたプールで久しぶりに泳いだ後、当時住んでいたオンキャンパス学生寮に戻り、夕食の席で「今日はサンセットキャニオンのプールで14往復したから700メートル泳いだことになるわね」と話した。すると同席したアメリカ人学生が「あのプールは50メートルよ!」と叫び、結局その日は1400メートル泳いだことが判明した。
翌日からは授業の後に、切りがいいので1マイル(1600メートル)水泳が日課となった。温暖なロサンゼルスのため12月末も屋外で泳いだ。いつプールに行っても必ず他の学生たちが勝手気ままに黙々と泳いでいたことを覚えている。UCLAでは一般学生向けの運動施設とは別に、アスリート学生専用の練習施設もあり、その環境は素晴らしいものだった。
明治大学に赴任してきた時、和泉体育館のプールで泳げるか聞きに行くと、体育実技の必修授業で使用されているため、自由に使える時間はほとんどないとのことだった。UCLAでは体育実技は必修ではなかったので、一般学生が好きな時に好きなだけ自由にプールを使える環境だったのだと改めて気付いた。
歳を重ねた今、趣味の長距離ウォーキングと、隙間時間を利用して最近始めたボクシング・エクササイズを楽しむことができるのも、UCLA留学時代に何年間も日課として続けた1マイル水泳の習慣と、それによって培われた持久力のおかげであると感じている。大学が自由に好きなだけ運動ができる環境を提供してくれたことをありがたく思う。運動をしたい学生が、好きな時に好きなだけ運動できる環境は素晴らしい。体を動かすことの楽しさに目覚めることもできて、それが後々まで習慣となって生きてくるのである。
学生の身体面でのウェルビーイングを考えるならば、大学が自由に好きなだけ運動できる環境を提供することは、在学中はもとより卒業後の彼らの人生をも豊かにすることができると思う。また、現在急務とされるアスリート学生の練習環境の大幅改善も早急に対処すべきことである。このことと一般学生の運動機会の充実は同時にかなえられるべきものではないだろうか。アスリート学生の練習施設環境の向上と、一般学生のウェルビーイングのためにできることを考えながら多くの議論を重ね、少しでも「前へ」進むことを望んでいる。(法学部教授)
明治大学広報第795号(2025年3月1日発行)掲載