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論壇
2025.04.01

リカレント教育のさらなる推進を(理事 池田 一義)

10数年前、15カ月間にわたり野中郁次郎先生が主催する「ナレッジ・フォーラム」というプログラムに参加する機会を得た。各企業から派遣された業種も経験も異なる役員クラスのメンバー30人。先生の授業は、冒頭バチカン市国所蔵の「アテナイの学堂」の映像から話が始まった。

プラトンは地上を指さし、アリストテレスは地面を指さしている。さて諸君はどちらを支持するのかという質問。二人の違いを哲学的アプローチから経営に必要な知識、経験、直観などメタファーを交えて解説する。小柄で華奢な体から発せられる熱量に圧倒された。残念ながら今年1月に逝去されたが、まさに知の巨匠たる方であった。

毎月4~5冊の課題図書が届き、毎回哲学、文学、経済、政治、防衛などジャンルの異なるテーマで、著名な専門家を招いた授業となる。午後はメンバー各人のキャリアや修羅場体験を「経験の共有」と題して発表する。他人の経験や実践から失敗や成功を互いに学ぶことを目的とした。夕刻のワークショップでは、グループでテーマを選定して共同研究を行い、その場には必ずワインとチーズが提供され熱い議論に拍車がかかる。

また合宿ではノルマンディー上陸作戦を成功に導いたチャーチルやアイゼンハワーのリーダーシップについて議論し知的機動力を養成する。複雑になる今日の社会経済情勢の中、リーダーに求められるものは単なる知性ではなく、実践知―フロネシス(賢慮)であることなどを学んだ。

さて、リカレント教育が日本の産業界での課題となっている。OECD(経済協力開発機構)の調査では、諸外国の労働生産性と成人学習参加率の比較で、成人学習参加率が高い国ほど、時間当たりの労働生産性が高い傾向にあるという。日本は現状、この参加率、生産性共に先進諸国から劣位にある。海外の大学や大学院では、年齢層も幅広く、一度社会に出た人財が学び直しで大学に戻るのは慣例である。私の場合は経営層向けの場であったが、その学びとネットワークは大きな財産となった。

本学もあらゆる世代に対して、学びの場として高い価値を提供する大学へより進化が求められている。今後、国や企業の予算規模もより多くなり、産業界では、リスキリングやアップスキリング、そしてCクラス(経営幹部層)向けに対応する場がより多く必要となる。

経済界に身を置く人間として、絶え間なく変化し、先行きが不透明な状況の中で経営判断を行い、行動を起こすことが求められてきた。大学経営も同様なのではと思う。母校の創立150周年に向け、変化の激しい時代に社会課題の解決に大きく貢献する大学となるよう微力ながら努力してまいりたい。

そう云えば、論語の最初の章句は「学びて時に之を習う亦た説ばしからずや」であった。

明治大学広報第796号(2025年4月1日発行)掲載