食・生命・環境を未来へつなぐ農学の使命(農学部長 竹中麻子)
2025年の夏も厳しい猛暑となった。気候変動による災害や日常生活への影響が心配される中、農作物の収量低下も大きな課題だ。さらに円安による輸入食料の高騰、米価格の上昇など、食料を巡る問題は社会の大きな関心事となっている。私たち日本人、さらに全世界の人類は、地球上で今後も十分な食料を確保し、生きていけるのか。この問いに真剣に向き合うことが求められている。
農学は、食料生産を起点としながら、生命の仕組みや環境保全へと対象を広げてきた。食料と環境の将来に深く関わる学問領域であり、地球や人類の未来を考える上で欠かせない知の基盤だ。
明治大学の農学部には、食料生産と環境保全に取り組む農学科、バイオ技術を生活に役立てる農芸化学科、生命の仕組みを探る生命科学科という理系3学科に加え、食料と環境を社会科学の視点から扱う食料環境政策学科がある。今年のオープンキャンパスでは、「そのお肉や牛乳はどうやって生産されるの?」「発酵食品を醸す微生物の科学」「オスとメスの生物学」「コメ価格の『高騰』を考える」といった模擬講義を開講した。教室は高校生で満員となり、食・生命・環境の課題解決を担う農学の姿勢が、若い世代の関心を確実に引きつけていることがうかがえた。
農学部の教育・研究の大きな特徴の一つは、多くの研究室が生き物を扱う点にある。動植物や微生物を育てながら実験を行うため、学生も教員も日々欠かさず世話に当たる。悪天候でも圃場に向かう学生や、休日に動物の飼育を続ける学生の姿は、農学研究の現場性と大変さを物語っている。フィールドに出て生態系を調査する研究者や、人や社会を対象に調査を行う研究者も多く、農学の研究活動は常に現場と密接に結びついている。こうした環境での工夫と地道な積み重ねが、確かな成果として実を結んでいる。
実際、近年は研究成果の発信が一層活発になり、大学院へ進学する学生も着実に増えている。食・生命・環境をつなぐ農学は、その重要性を今後さらに高めていくだろう。この歩みを力強く進め、未来の社会に貢献していくことこそ、農学部の使命であると考えている。
明治大学広報第802号(2025年10月1日発行)掲載