経営学部の経営(経営学部長 中西晶)
経営の世界では今、「ガバナンス」と「イノベーション」という二つの潮流がせめぎ合っている。組織の健全性を支えるのは統治と透明性、すなわち「ガバナンス」であり、成長と変化を駆動するのは創造と革新、すなわち「イノベーション」である。この安定と変革の両立こそ、現代経営の最重要課題である。そしてその命題は、経営を教える学部にも例外なく当てはまる。
大学は知を生み出す組織であると同時に、教育という社会的使命を担う経営体でもある。経営学部における「ガバナンス」とは、教育の質を保証しつつ研究の自由と責任を両立させる仕組みの確立を意味する。明治大学経営学部では、カリキュラムマップや履修モデル、シラバス公開を通じて教育課程の透明性を高め、学生が主体的に学びを設計できる環境を整えている。また、1年次からの少人数ゼミナール制により、学生と教員の対話を制度として組み込み、教育の質を不断に磨いている。これらは、学部が自ら「ガバナンス」の強化に取り組んでいることの証左である。
しかし、「ガバナンス」の確立だけでは、時代の変化に対応しきれない。生成AIやサステナビリティ、人的資本経営など、社会の課題は日々進化している。本学部教員の研究テーマには、「イノベーション・マネジメント」「ブランド戦略」「インダストリー4.0(第4次産業革命)」「ウェルビーイング経営」「国際会計基準」など、現代社会の課題と呼応するテーマが並ぶ。ゼミナールにおいても新事業開発、地方創生、国際比較経営といった実践的研究が展開され、学生は仮説構築と検証のプロセスを通じて、自らの中に変革の感性を育んでいる。これこそ学部が内側から「イノベーション」を創出する姿である。
本学部の創始者・佐々木吉郎は「明日に役立つ人材の育成」を理念として掲げた。経営とは、過去を管理することではなく、明日を創る行為である。この理念は、「ガバナンス」と「イノベーション」をつなぐ羅針盤であり、本学部の教育と研究の根底に流れる精神でもある。
経営学部の経営とは、制度を整えるだけでなく、社会の変化を先取りし未来を構想する「知のマネジメント」である。そしてこの視点は学部のみならず、大学全体で共有されるべきものだ。変化の時代において、明治大学が自らをどう「経営」できるかが問われている。
明日の社会を創る主体として、明治大学は、明治大学経営学部は今日も、「経営」の在り方を考え、その実践を続けていく。
明治大学広報第804号(2025年12月1日発行)掲載
