AI時代に何を教えるか|総合数理学部長・荒川薫
世はまさにAIの時代だ。20世紀半ばに考え出された人間の脳の数理モデルは、その後のコンピュータとインターネットの飛躍的発展により、人間と見分けがつかないような知能を持つ人工物となった。これが現在のAIである。しかもそれは、私たちの身近な存在になり、誰もが気軽に使えるものになった。
このAIは私たちの質問に対して非常に親身な回答を出してくれるため、面白がって使っているうちは良いが、ちょっと使い方を間違えると困ったことになる。大学では、数学の方程式の解き方や計算機プログラムの作り方を教えているが、AIを使えば特に教わらなくても簡単に方程式の解を求めたりプログラムを作成したりすることができる。
では、AIの使用を禁止すべきかというとそうは思わない。これを禁止しても、誰でもAIには簡単にアクセスできる。また、教員にもAIが出した答えと学生が出した答えの違いを見破るのは難しい。
むしろ、AIを積極的に使うことでより広い知識と深い思考力を得ることができる。今、AIがこれだけ進歩した背景には、AIのプログラムが公開されていて、誰でも自由にそれを改変して使うことができるということがある。皆が真面目に一から自分でプログラムを作っていたのでは、このような進歩は無かったはずだ。使える知能は可能な限り利用し、効率よく次のステップに進むことが現代の研究推進に求められている。
では、このようにAIを活用していればよいかというと、そこにはやはり落とし穴がある。まず、AIが出した答えが正解である保証はない。AIは過去のデータからもっともらしいことを出力しているだけで、それを正しいものと思っているとまるで間違った方向に進んでしまう危険性がある。
またAIは現在、海外の企業が提供している技術であり、これが本当に、この先永遠に使えるかの保証もない。さらに、今後のAIの活用は電力消費を増大させ、大量のCO2排出によって地球温暖化にも影響を与えるため、何らかの規制が敷かれる可能性さえある。このように、AIの安全性と信頼性は依然として不明だ。
AIを拡張知能、すなわちAugmented Intelligenceとして使って便利な思いをしているのは良いが、これが使用不可能になっても人間の知的活動を続けられるよう、やはり数学やプログラミングなど先人たちが築いてきた学問を教える必要がある。そうなると大学で教えるべきことは増えるが、このAI時代に何を教え、何であればAIに頼って良いかを判断するところに、大学教員の知能が生かされる。
明治大学広報第808号(2026年4月1日発行)掲載
