学び続ける社会を支える|専門職大学院長・山村能郎
リカレント教育という言葉が広く用いられるようになって久しい。現在、AIをはじめとするデジタル技術は急速に進化し、それに伴って産業構造や人々の働き方も大きく変化している。これまでに学んだ知識や技能は陳腐化を免れず、不断のアップデートが求められる。一方で、その手段の一部はAIによって既に代替されつつある。専門性はより高度化し、大学を卒業して社会人となった後も、人生の各段階で新たな知識や視点を学び続けることが不可欠となっている。
中国古典の五経の一つ『礼記』には、「玉琢(みが)かざれば器を成さず、人学ばざれば道を知らず」という一節がある。生まれつき優れた才能を持っていても、人は学びによって初めて自らを磨き、学びや修養を通じて初めて人格や見識を形作る、という意であろう。時代を超えて、現代社会においても学び続ける意味の重さを示している。この「学び」は、若年期に限定されたものではなく、生涯を通じて自らを鍛え続ける営みでもある。渋沢栄一は、実業の現場に身を置きながら『論語』を学ぶ重要性を『論語と算盤』によって説いた。実務と教養、経験と知識を往還する姿勢は、現代のリカレント教育にも通じる。
専門職大学院は、時代の要請に応えるべく、明治大学のリカレント教育を支える基盤として存在している。法務、会計、公共政策、ビジネスの4領域にまたがり、単なる知識伝達の場ではなく、実務を背景に、学術的視点から諸課題を検討し、新たな価値創造へと結び付ける場である。そこでは、自ら問いを立てて解決策を提示する力、それを評価する力、そして社会に実装する力が問われる。個々の属性を超えて広く社会に開かれたこの知的交流の場こそが、大学の本質的価値の一つである。
リカレント教育の意義は、個人の能力向上にとどまらない。企業や行政機関をはじめとする組織の変革を促し、地域社会にとっては新たなイノベーション創出の契機ともなり得る。多様な人材が、組織や個々人の属性を超えて活躍できる社会基盤の形成にもつながる。人口減少と高齢化が進む日本において、「学び続ける社会」の構築は、持続可能性そのものに関わる課題と捉えるべきである。
社会環境が大きく変化する現在、将来に対する不確実性はますます大きくなっている。もちろん、現在に限らず、これまでも将来に対する不確実性は存在し、私たちの進む先は見えていなかった。それでもなお、いま私たちが進む先には、より深い暗闇が待ち受けているように思われる。「学び」は、その暗闇を照らす灯でもある。わずかな灯は、遠い道の奥まで照らすことはできなくても、私たちが歩む足元を照らしてくれるであろう。(グローバル・ビジネス研究科教授)
明治大学広報第810号(2026年6月1日発行)掲載
