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駿風
2025.08.01

「駿風」2025年8月

シルヴィ・ギエムは伝説的バレエダンサーである。新体操選手だったが、スカウトされてバレエダンサーに転身した。『シンデレラ』やベジャールの『ボレロ』を踊る彼女の力強い美しさは、今も記憶に鮮明に残る。弧を描く足の甲がとにかく美しかった。その足型を基にブロンズ像が作られたほどである。

上野の東京文化会館で行われたギエムの公演を観に行った知人から聞いた話がある。公演後、知人は友人の公演舞台裏方さんと会食予定だったので、待つ間、無人の客席に1人居残っていた。すると突然舞台に彼女が戻ってきて、公演演目内の同じパッセージを納得いくまで何度も何度も練習していたのだという。その追求の姿を知人は1人見守った。

バレエは、ダンサーの肉体があたかも重力を排して、意図通りに、だが無意識のごとく動き、静止しなければならない。そのような肉体がつくられるのは繰り返される練習によるしかない。それを続けたからこそ、ギエムの現役は長かった。

ならばギエムならぬ凡人は、一層練習を怠らぬようにしなくては、何らかの現役は続けられないのではないかと思うが、いかがだろう。

明治大学広報第800号(2025年8月1日発行)掲載