第662回 明大スポーツ新聞部 ズームアップ
文/リ シアンエン(情報コミュニケーション学部3年) 写真/伊原 遼太朗(商学部3年)

「菱川くんに代わりまして、久野くんがピッチャーに入ります」。アナウンスが響き渡ると、遠ざかっていた神宮球場のマウンドに久野悠斗の姿があった。実に700日ぶりとなるリーグ戦の登板。この日は2回を無失点に抑え、復活の兆しを示した。しかし、その舞台に立つまでの道のりは決して平坦ではなかった。
186センチの長身から繰り出す最速152キロの直球と、コーナーを突く制球力を武器に、久野は1年の秋から登板機会をつかんだ。リーグ戦では2試合に先発し、防御率1.38の好成績で、順風満帆のスタートを切った。2年の春は左肘の故障で出遅れ、わずか2登板にとどまったが、その後はリリーフとして投手陣を支え、秋には7登板無失点を記録するなど、将来のエース候補として大きな期待を背負った。
しかし、3年の春、肘の痛みが再び久野を襲った。開幕直前に限界を迎え、ついにトミー・ジョン手術を決断する。「一番申し訳ないなと思ったのはやっぱり両親ですね。手術をすることで、産んでくれた体に傷をつけてしまった」。長いリハビリ生活ではフォームを見失い、肩や肘の不安と向き合いながら、何度も壁に突き当たった。それでも「つらい時もあるけど、とにかく復活している時の自分をイメージしながら」と前向きな姿勢を崩さず、今春には完治。春のリーグ戦こそ出番はなかったが、夏のオープン戦で好投を重ね、秋に2年ぶりのメンバー入りを果たした。
そして迎えた復帰登板。スタンドから「久野、おかえり!」の大声援と拍手が飛び交う中、ゆったりとしたフォームから投じられた第1球。それは、幾度も苦難を乗り越えた左腕が手にした、栄光の証しだった。
(ひさの・ゆうと 商学部4年 報徳学園高校 186cm・90kg)
明治大学広報第803号(2025年11月1日発行)掲載


