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2024.12.02

国際シンポジウム「デンマークのリスキリングから何を学ぶか」を開催(政治経済学部)

政治経済学部
パネルディスカッションの様子。左から、倉地准教授、エリアス氏、フェラン氏、ロウ氏

11月10日(日)、明治大学政治経済学部の倉地真太郎准教授と立教大学経済学部の菅沼隆教授が共同で主催する国際シンポジウム「デンマークのリスキリングから何を学ぶか」が、駿河台キャンパスにて開催された(共催:明治大学政治経済学部経済学科、後援:在日本デンマーク大使館、日本デンマーク協会)。これは、科研費プロジェクト「イノベーティブ福祉国家としてのデンマーク―福祉国家の持続可能性の制度的基盤の研究」の成果報告の一部として行われたもの。

「新しい資本主義」において近年関心が高まっている「リスキリング」。デンマークでは、労働市場の柔軟性と社会的なセーフティーネットを両立する「フレキシキュリティ」という労働市場政策が導入されており、デンマークの人たちの働き方は国内外で注目を集めている。そこで今回のシンポジウムでは、デンマークの労働市場政策の実務担当者と研究者をお招きし、デンマークの「リスキリング」の最前線についてお話しいただくとともに、日本との比較の視点から議論を行った。

冒頭、コーディネーターの倉地准教授から、国際シンポジウムの趣旨説明とデンマークの労働市場政策や職業訓練制度に関する基本的な説明が行われた。

第一講演者のスティナ・エリアス (Stina Elias)氏(デンマーク中央職業訓練委員会委員長、Tænketanken DEA代表)は、デンマークでは多種多様な職業訓練プログラムを支える業界・地区委員会等の組織ネットワークが機能していることや、座学と実習を組み合わせる「デュアルシステム」に基づいた職業訓練システムの内容を労使が協力して組み立てていることを解説。職業訓練の受講者の興味関心や将来ビジョンに応じて柔軟に対応できる仕組みがあることを強調した。

エリアス氏による講演

第二講演者のトマス・フェラン氏(Thomas Felland)氏(FH:Fagbevægelsens Hovedorganisation(旧LO労働組合全国組織))は、労働組合が職業訓練システムの開発と管理にどのように関わっているのかや、政労使の三者合意による職業訓練、企業と組合が協力して訓練費用や給与を拠出する仕組みについて取り上げ、解説した。また、デンマークの労働市場の課題として、職業訓練の受講者や特定の熟練技術者、職業訓練の指導者および場所の不足を挙げ、職業訓練の予算増額やインセンティブ強化といった対策について説明。さらに、近年合意・交渉が進んでいる「緑の三者合意」(グリーンテクノロジー推進の資金確保)についても紹介した。

フェラン氏による講演

第三講演者のアント・ロウ(Arnt Vestergaard Louw)氏(オルボー大学准教授)は、研究者の視点で現場でのヒアリング・質的調査の結果から、デンマークの職業訓練制度「デュアルモデル」の実態について解説。座学と現場実習を交互に行うことによって、理論と実践を統合的に理解することができ、またプロフェッショナルを実感することで、後世に残る仕事として責任感を持ち現場コミュニティーに参加することができると強調した。ただし、現状では座学と現場実習の間にギャップがあることが課題となっているため、学生の視点に立つことや学生のモチベーションを高めるような現場実習体制の構築が必要であると述べた。

ロウ氏による講演

シンポジウムの後半では、参加者と講演者による質疑応答が行われ、三者合意がなぜ可能なのかや、デュアルシステムの仕組み、緑の三者合意とグリーンジョブ・脱炭素の関係、日本への提言などについて議論がなされた。

特に日本への提言として、ロウ氏は、日本とデンマークでは大きくシステムが異なるため、システムではなく原則を学び応用する必要があることや、日本の高度な職人技術への誇りを維持すべきであること、さらに、労使の信頼関係構築が重要で、協力することのメリットを見いだすべきであることなどを語った。

また、エリアス氏は、日本社会の安全性という強みを生かすことや、職場を生涯学習の場として捉えること、ダイバーシティの推進を検討すべきであることなどを述べた。

最後に、主催の一人である菅沼教授が閉会のあいさつに立ち、デンマークのシステムの優れた点として、中央レベルで職業訓練政策の司令塔が存在し、社会ニーズに合わせて柔軟にプログラムを変えることができることと、労働組合と企業が職業訓練に対して強い責任感を持っていることを挙げた。その上で、日本においても、労働組合は企業内訓練だけでなく、社会全体のスキル向上に関与し、経営者団体も社会全体への視点を持ち、労使のパートナーシップを通じた政府の職業訓練政策の改革が必要であると述べた。

シンポジウムに参加した明治大学大学院生の森嶋和之さん(政治経済学研究科 博士前期課程1年)は、「デンマークの充実した職業訓練制度や日本との違いに驚いた。特に、労使対立ではなく労使協調の重要性を指摘するフェラン氏のコメントには考えさせられた。また、システムや制度を模倣するのではなく、その背後にある原理を学んでほしいというロウ氏のコメントも印象的だった。日本の労働組合の在り方にも関心が生まれた」と感想を述べた。

本シンポジウムは、対面・オンライン合わせて100人以上が参加し、盛会のうちに終了した。政治経済学部では、今後もデンマーク・北欧の今を知るイベントを開催していく予定。(政治経済学部事務室)