
約3万人の学生が通う明治大学の中でも、毎日にぎやかでフレッシュな和泉キャンパスには新たな教育施設「ラーニングスクエア」が誕生しました。活発な学びを促すたくさんの仕掛けがあり、全国の大学からも注目を集めています。そんなラーニングスクエアの魅力を「もっと受験生に届けたい!」と意気込むのは、キャンパス案内を担当する学生・佐藤璃子さん。構想から工事が終わるまで、このプロジェクトの管理をしていた施設課職員の菅和禎さんに案内してもらったところ、知られざる裏話をたくさん聞くことができました。
プロフィール
佐藤 璃子(さとう・りこ)
経営学部の4年生でゼミではマーケティングを専門としている。大学の魅力を受験生に伝える団体「学生プロジェクト」(通称:学プロ)に入っていて、主にキャンパスツアーを担当している。
菅 和禎(すが・かずさだ)
管財部 施設課で働く一級建築士の職員さん。和泉キャンパスの正門、図書館、グローバルヴィレッジやラーニングスクエアをこれまで担当してきた。卒業生としても明治大学に対する思いは人一倍熱い。
Topic1:これはイスと机、どっち?
佐藤:菅さん、今日はLS(ラーニングスクエア)の裏話がたくさん伺えるとのことで、楽しみです。よろしくお願いします。
菅:こちらこそ、よろしくお願いします。百聞は一見にしかず、さっそく中に入ってみましょう。
佐藤:おお!やっぱり入った瞬間の光景はインパクトがありますね
菅:「大学だけど、大学に見えないものをつくろう」という気持ちを持っていました。その意味で、このエントランスの空間はとても重要で、特に学生の活動でにぎわってほしいなと思っていた場所なんです。グループボックスを置く角度や色の細かいところまで、模型やVRを駆使して設計段階ではかなり試行錯誤してきました。
佐藤:細部へのこだわりがあったのですね。職員さんのそんな思いがあったとは知らなかったです!
佐藤:1階は吹き抜けの壮観もさることながら、階段の下にあるちょっと凹んだ空間が気になりますね。
菅:センターアゴラですね。ここにもこだわりポイントがあるんです。


菅:佐藤さん、突然ですがこれは何だと思いますか?
佐藤:えーっと?イスですよね…?
菅:そう、イスです(笑)
佐藤:ん?これって…、なんかのひっかけ問題ですか?(笑)
菅:すみません。でも先日、このイスにパソコンを置いて、立って議論する学生たちを見かけたんです。
佐藤:ああ、そういうことか!謎解きみたいなのが始まるのかと思いました。確かに、こうやって座って作業する机として使っても、意外としっくりきます。
菅:そう、私たちはイスだと思って置いていましたが、「机として使わないでね」とは言っていないんです。小さなことのように見えますが、大学にあるものを学生の皆さんの新しい発想で使ってもらいたい。LSにはいろんな仕掛けがありますが、(壊さなければ、)どこでも自由な発想で使ってもらえればと思います。
佐藤:素敵!型にはまらない感じが明治大学らしいです。そもそも、エントランスホールにいきなりプレゼンスペースがあること自体、型破りな感じがします。
菅:プレゼンスペースを多く設置しようとは構想していました。もともと和泉キャンパス全体で不足していたんです。
佐藤:不足していた、というのは?
菅:設計前に、和泉キャンパスに必要なものは何なのか、チームで議論を重ねました。その時に、キャンパスの主要な部屋の機能をマトリクス分析したんです。結果、静かな空間は多かったものの、活発に議論したりプレゼンしたりするのに適した「うるさすぎず静かすぎないちょうど良い空間」が少ないと判明したんです。
佐藤:緻密な裏付けがあったわけですね。正直、ひとつひとつにこんなに裏話があるなんて、思っていませんでした。
菅:ありがとうございます。次は3階に移動して、この施設の目玉、グループボックスをご案内しますね。


Topic2:カラフルなグループボックスの秘密
(3Fに到着)
佐藤:やっぱり近くで見ると大きいですね~
菅:ですよね。それでは、中に入ってみましょう!
佐藤:いざ入るとさらに広々と感じますね。
菅:ゆったりと感じてもらえてうれしいです。でも、当初計画だと、もっと大きくする予定だったんですよ。
佐藤:小さいサイズになったわけですね。和泉キャンパスは活気があって人がとにかく多いから、大きい方がいいようにも思えるのですか…?
菅:ですよね。私たちもそう思っていたので、初めは1ボックスあたり6~8名の定員で計画していました。でも、キャンパスでの学生の動きをよく観察してみると、実際には4人前後で活動していることが多いようでした。
佐藤:なるほど、空席ができるなら、部屋自体を小さくして、たくさん設置できた方がいいということですね!
菅:まさにその通り。
佐藤:あ、ちょっとまってください、よく見ると小さなイスがある!これを使えば6人とかでも、利用できそうですね!
菅:そうなんです。少し手狭かもしれませんが、そういった場面も想定して、+αの人数で使用できるようにちょっとしたイスを置いたんです。ここに気が付くとは、佐藤さんすごいですね!施設課の仕事に向いているかも。
佐藤:うれしいです!透明なボードなのも、特別感があって使いたくなるんですよね。どれどれ…
菅:これはまさか…?
佐藤:めいじろうの完成!
菅:さすが、佐藤さん!この透明ボードを気に入っていただけて何よりです。でも、ここの当初の予定は、モニターとホワイトボードを入れる予定だったんです。工事中でしたが、変更することができました。
佐藤:えー、ギリギリ!この部屋の場合、それだと普通の部屋っぽくなっていたかも……。なんだか「これを使って勉強しなさい」と言われているみたいで。
菅:いろいろと議論した末、より自由な空間にしてデザインも洗練すべきだと結論が出ました。その方が学生の気持ちが高まるはず、というのが一番の理由です。
佐藤:おしゃれでありながら、自由に活動できる雰囲気が、私はすごく好きです。私はキャンパスツアーを希望する高校生にLSを案内しているので、その魅力が少しでも伝わればいいなって思っています。
菅:学生には、時間も空間も自由につかってほしいな。
佐藤:そういえばここで友達の誕生日を祝ったことがあります!!菅さん、私も空間を自由に使えていますかね?
菅:もちろんですよ。ちなみに佐藤さん、その時ケーキは食べたりしたかな?
佐藤:え?
菅:この部屋タイプのグループボックスだけは、飲食禁止なんだよね~。
佐藤:……はい。もちろん、食べてないですよ!(笑)




Topic3:お気に入りのテラス
菅:佐藤さん、ところでLSで好きな場所はありますか?
佐藤:私のお気に入りは、ずばり7階のテラスです!
菅:そこにも、たくさんのこだわりがありますよ。では、行ってみましょう。
佐藤:着きました~。やっぱりこの解放感がいいですよね。眺めも最高です。
佐藤:この木で囲われたスペースによくいました。囲みがあるとなんとなく入りたくなって、お昼ご飯を食べながら、ゼミの準備の話し合いをしていました。
菅:LSはその日やりたいことを学生が自由にして、その結果、人や学問との偶発的な出会いが生まれてほしいという狙いから設計されているんです。なので、屋外のテラスで勉強するという選択肢があっていいんじゃないかと思うんです。



Topic4:建物の機能は落とさない、サステナブルなキャンパス
(7階のテラスから屋内に戻った二人)
佐藤:7階のテラス、いつ行っても最高でしたね。屋内に戻りましたが、ここからの吹き抜けも開放的ですごい景色ですよね。
佐藤:これだけ天井が高いのに夏でも冬でも快適だった。ってことは、ものすごく巨大なクーラーが裏で動いているんですか。
菅:確かに、とてつもない電力を消費しそうな感じがしますよね。でも実際は、全館で人が活動する床から約1.8mのところだけに、快適な空気が流れるようにしているんですよ。「居住域空調」と呼ばれています。
佐藤:エコな取り組みなんですね。
菅:空調だけでなく、他にもたくさんあります。その秘密を探りに、今日だけの特別な場所を案内しましょう!
佐藤:やったー!
佐藤:屋上につきました。
菅:ここも普段は入れないよね。ちなみに、あっちの方に中野キャンパスが見えるんです。
佐藤:おお、見えました。逆側には巨大な機械が並んでいますね。
菅:なかなか見る機会はないよね。
菅:こっちにある屋根が3つ並んだところに、エコな秘密が隠されているんだ。それでは、入ってみましょう!
(移動)
佐藤:着きました。なんと…
佐藤:なんと!屋上とさっきまでいた空間がつながっていたんですね!
菅:LSには大きな窓やオープンな吹き抜けがありますが、外光がちょうどいい具合で入ってきますよね。外から入る明るい陽射しの分だけ照明をつける必要がなくなります。しかもお洒落な景観も保てる。さらに屋上に設置した高窓が風の通り道となって、自然と建物内部の空気が流れる設計にもなっているので、電力も使わずに循環する。
佐藤:おしゃれとエコの両立!
菅:ただ、窓が大きい分、陽が入りすぎてしまって、夏はまぶしくて暑いという問題が起こる。それを防ぐために建物外周部にひさしを設けたんです。
佐藤:なるほど。
菅:ガラスは熱を遮断する「Low-eガラス」を採用しているので、適度な光以外の余計なエネルギーを取り込まないようにしているんです。こういった取り組みをトータルしたところ、建物に必要なエネルギーを52%以上減らせた。その結果、省エネルギー化を実現した建築物として「ZEB ready」の認証を取得できたんです。
佐藤:エコな取り組みのオンパレード。そのすべてがものすごく計算しつくされていて…、すごい!!
菅:ありがとうございます。でも実は最初から省エネルギーを一番に目指していたわけではなかったんです。予算面でもかなり厳しい見通しでした。ただ、建物の機能は落とさずに、なんとか地球の負荷を減らせないか、とチーム全体で意識を持って行動したから、実現できたのは間違いないです。
佐藤:この建物に携わる、いろいろな方の思いとアイデアが隠されていたんですね。

Topic5:おわりに
佐藤:ここまでお話を伺って、LSがたくさんの議論を繰り返して、試行錯誤した結果、完成したと知って、ますます愛着が湧いてきました。
菅:そうだね、当初の計画通り進んだことなんて、むしろないんじゃないかな(笑)。でも、「学生たちの記憶に残って、誰かに誇れる建物をつくりたい」という漠然とした思いだけは、皆、共通して持っていたと思います。
佐藤:かっこいいです…!
菅:そうそう、今歩いている教室のフロアを見上げてみると、配線がむき出しになっているよね。
佐藤:そこがむしろデザイン的に好きですが。見上げると教室番号が書かれているのもいいですよね。
菅:そう言ってもらえるとうれしいです。でも実は、この部分は当初の計画になくて、天井材で覆う予定だったんです。でもそこにはコストがかかる。天井材がなくてもかっこいいと思えるならあえて覆わず、そこで浮いたコストから、何か学生がもっとわくわくすること使えないかという意見が出たんです。その結果誕生したのが、館内の至るところにある掲示やピクトグラム。すでに工事も大詰めでしたが、施設課メンバーや設計、工事業者のスタッフさんと一緒にアイデアを出し合って、完成したんです。
佐藤:完成する寸前まで、議論されていたんですね!ひとつひとつが目に留まって、遊び心が感じられて、楽しい気分になります。
菅:これには、とことんこだわりましたよ。トイレ入口にパラパラ漫画風のピクトグラムを設えたり、衝突防止シールには「隠しめいじろう」を仕込んだり、フロア案内図には明治大学の研究成果でもおなじみの「錯視」の効果を用いたり……etc.
佐藤:ものすごい熱量を感じます。1日お話を伺って、私たちが通うキャンパスは多くの方たちのそうした「ものすごい熱量」が形になっているんだと実感できました。
菅:これまで私は、和泉キャンパスの図書館の建て替えや正門・外構の整備も担当してきました。「学生たちの記憶の中に永く残る建物をつくりたい」という気持ちはその時からずっと持っています。多くの友人や多様な学びとの出会いがキャンパスで生まれて、「とても楽しかったなー」と思って卒業してもらえる。そして、その思い出の原風景を支えに、社会で頑張って活躍してもらえたらうれしいです。
佐藤:菅さんたち皆さんの思いが込められたお話を、高校生にも熱く伝えられるように頑張ります! 今日はありがとうございました!
菅:こちらこそ、ありがとうございました!
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