
勤務先 | 公益財団法人 日本数学検定協会 |
1996年3月、明治大学理工学部数学科卒業。同年4月、株式会社日立ソリューションズ・クリエイトに入社し、システムエンジニアとして企業向けシステム開発およびプロジェクトマネージャーを担当。2017年4月から東洋大学大学院経営学研究科にて経営学・財務を学び、2019年3月MBA取得。2019年4月から現職。
文系・理系を問わず、数学は必須のスキル・リテラシー
現在、どのようなお仕事をされていますか?
主に二つの業務に携わっています。一つは、「データサイエンス数学ストラテジスト」という資格の開発と普及活動です。この資格は、データサイエンスやAIの基礎となる数学のスキルとリテラシーを測るものです。試験の立ち上げから公式問題集の執筆、セミナー登壇なども担当しています。もう一つは、数学検定の問題編集です。特に高校・中学校向けの問題を担当しています。
現在のお仕事を通じて実現したいことを教えてください。
大学卒業後はIT業界に就職しましたが、根っからの数学好きなので「より数学を生かした仕事ができないか?」と日々考えていました。そんな中でAIが急速に普及し、データサイエンスの重要性が認識されるようになりました。そこで「データサイエンス・AIと相性の良い数学を扱える人材を育成することで、社会に貢献できるのではないか」と考え、現職に転職しました。
転職をした2019年に国がAI戦略2019 を定め、数理・データサイエンス・AI教育の重要性を示しました。そこで日本数学検定協会でも「データサイエンス・AIと相性の良い数学の資格試験を立ち上げよう」ということになり、約3年かけて、2021年にデータサイエンス・AIにおいて基盤となる数学力向上を支援する資格「データサイエンス数学ストラテジスト」をリリースしました。
この資格は4分野ありますが、どの分野でも自分のこれまでに培った知見や経験が生きています。「AI・データサイエンスを支える数学基礎」では理工学部数学科で培った知識、「機械学習・深層学習の数学的理論の理解」「アルゴリズム・プログラミングに必要な数学リテラシー」ではシステムエンジニアの経験、「ビジネスにおいて数学技能を活用する能力」ではMBAで得た財務・マーケティングの知識が生きています。
データサイエンス・AIの時代に、数学は文系・理系を問わず必須のスキル・リテラシーです。少しでも数学の大切さを理解し、興味・関心を持ってもらい、「数学を身に付けよう」という方を増やしていきたいと考えています。

異分野への転職でもシステム開発の経験が生きた
転職では、どのような苦労がありましたか?
システムエンジニアから数学教育という異分野への転職をしたため、転職当初は初めてのことが多く苦労しました。
公式テキストや公式問題集などの出版業務では、原稿の執筆や取りまとめ、帯やカバーデザインのチェックといった、書籍が出版されるまでの工程にひと通り携わりました。全くの未経験でしたが、関係者に経験や知見を聞いて回りながら、苦労して一工程ずつ仕事を覚えました。
ただ、出版の仕事は、システム開発の仕事と似ている部分がありました。システム開発で行う要件整理、設計、開発、テストといった工程や、タイトな納期を守るための日程調整、ステークホルダー(関係者)との調整といった経験を最大限に生かしました。
検定問題の編集業務にも携わり、一から仕事を覚えました。私は社会人としての経験年数は長いですが、業界の経験が浅いことは周知の事実でしたので、恥ずかしがることなく各分野で詳しい方に教えを求めました。さらに、根っから好きな数学を仕事で堂々とできることがうれしかったため、臆せず聞くことができました。
誤りが許されない検定問題の作成業務においても、顧客向けにバグ(システムの不具合)の許されなかったシステムエンジニアの20年以上の経験を生かし、メンバーと連携しながらクリエイティブかつ緻密な仕事を行っています。
「ないじゅか」で仕事を整理
キャリアの中で、転機になった出来事を教えてください。
システムエンジニアの新人時代の、先輩からの教えです。学生時代は自力でテストの合格点を求めていましたが、「仕事では顧客に対して『新人が作ったから出来が悪くて申し訳ありません』とは言えない」と教えられました。自分の出来・不出来にこだわるのではなく、必要なら周りの力を借りて、顧客・ユーザーに対して企業の名前が付いた製品として満足したものを出せるかを意識するようになりました。
MBA取得でどのような知識を得ましたか?
経営戦略や財務の知識を得たことで、より俯瞰的な視野を持てるようになりました。何か戦略を検討する際に、SWOT分析(自社の強み・弱みの分析)、3C分析(顧客・競合・自社の分析)などのフレームワークがさっと頭に浮かぶので、検討の過程やプレゼンテーションの指針になっています。
また、こうしたフレームワークの一つに「改善の4原則」という考え方があります。元は英語ですが、私は日本語で「ないじゅか」と覚えています。①無くせないか?(排除) ②一緒にできないか?(結合) ③順番を入れ替えられないか?(入れ替え) ④簡単にできないか?(単純化) というもので、仕事などで整理が必要な時に役立っています。
時間があるうちに、興味があることに打ち込んでほしい
明治大学の在学中に学んだことを教えてください。
理工学部数学科での学びが、論理的思考や問題解決能力の基盤となりました。数学で定義を確認・証明し、そこから定理・確定事項を積み上げていくという論理的な思考は、取り組む仕事の定義・前提を確認し、納得して先に進むという考え方につながっています。
また、最終的にたどり着くべきゴールを見据えて論理的に取捨選択し、積み上げていくという進め方は、システム開発やコンテンツ開発の仕事に生かされています。
大学生・高校生には数学を通じてどのような学びを得てほしいですか?
データサイエンスの分野では数学が必須であると言えます。また、文系でもAIを使いこなすには最低限の数学力が必要です。
企業でも、KKD(勘・経験・度胸)だけでは通用せず、業務データから数学的にビジネス的な価値を分析・評価したり、ビッグデータを活用して今後のビジネス戦略を練ったりすることも必要な時代になってきました。こうした場面でも、統計を含めた最低限の数学力が求められてきます。
数学を学ぶことで、将来の選択肢を広げてほしいです。
明大生・高校生に伝えたいメッセージをお願いします。
社会人になると、まとまった時間・休日を取ることが難しくなります。学生時代のまさに今、時間のあるうちに、勉強やサークルなど自分が興味を持ったものに打ち込んでほしいと思います。その経験が必ず、後々の財産になります。
また、社会人になったら、入社した企業で閉じるスキルだけではなく、社会一般に通用する専門性・ポータブルスキル(※)も意識して磨いていってほしいです。私は、これまでに培ってきた数学の知見、IT・システムの知見、ものづくりやプロジェクトでの進め方、企業向けプレゼンテーションの経験などが今でも役立っています。
最後に、明治大学の卒業生はさまざまな業種にいるので、卒業後もつながることができる機会が多々あります。年代が違っても、同じ母校というだけで親近感が湧くものですので、ぜひとも学生時代や卒業後も明治ブランドという一生ものの宝を誇りに感じてください。
※ ポータブルスキル:職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル

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