2019.09.05

【特集・後編】「チュニジア体験記」高橋佑規さん


【特集・後編】在チュニジア日本国大使館、草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員 高橋佑規さん
チュニジア一視聴率が高いバラエティー番組【Omour Jedia】出演時の1枚

チュニジア体験記

無職時代

そんな苦難を乗り越えようやく現地の大学院を修了したわけですが、一度は日本に戻ろうと考えながらもチュニジアに残ったのには訳がありました。現在のチュニジア人の妻との関係を持続させるためでした(当時は独身)

チュニジアの失業率は高く、大卒者の失業率は、世界でもトップレベルの高さです。その上、チュニジアにおける日本企業はごく少数で、現地企業や外資系企業がチュニジアで日本人を雇うメリットはほとんどありません。日本人を雇うにしても労働ビザの責任を企業側が受け持たなくてはならないため、わざわざ面倒なビザの手続きを踏んでまで日本人を雇ってくれる親切な企業などありませんでした。せっかく多言語を習得したというのに就職先には一向にありつけませんでした。

一躍有名芸能人に

その日もいつものように履歴書を片手に企業訪問をしていました。その合間に立ち寄った喫茶店で、テレビ局に勤務する友人とばったり出くわしました。近況を語り合うなかで彼から、日本人でアラビア語を話すユニークな存在だからテレビに出てみないかと提案され、アルバイトくらいにはなるかとその話に乗ってみることにしました。数日後、彼から連絡があり、番組の担当者が私と話がしたいとのことでした。その方に会いに行くや、その場でテレビ出演が決定してしまいました。それがどのような番組で、舞台でどのようなことをするのかまったく分かりませんでしたが、YouTubeや手渡されたシナリオを見る限り、お笑い番組であることは察知しました。それがチュニジア一視聴率の高い番組であったことは後になって知ったのですが。

テレビ撮影の大舞台に立つという経験も芸能人になろうと考えたことも過去にはなく、極度の緊張のなか撮影を終えました。番組における私の役割は、主にコント等のお笑いでした。これが予想のほか、大好評だったようで、翌週以降の撮影にも呼ばれるようになりました。出演回数を重ねる毎に私のお笑いが評判となり、瞬く間に一躍有名芸能人になってしまいました。すると同番組の企画でサッカーチュニジア代表の応援に駆り出されたり、別のテレビ・ラジオ番組からの出演依頼がくるようにもなりました。国外の番組からの出演依頼を受けたこともありました。

2018年サッカーロシアワールドカップアフリカ最終予選にて

私生活での変化

私生活にも変化が見られました。街を歩けばYuki、Yukiと声をかけられ、写真撮影を頼まれるようになりました。それまでチュニジアにおけるアジア人の象徴的な呼称がジャッキー・チェンだったのに、私のテレビ出演以降はそれがYukiに変化しました。テレビ出演前はただの無職の一般人だったのに、自分を取り巻く環境が一変したため、最初はその状況がとても不思議でなりませんでした。

ラジオ出演時の様子

日本はチュニジアから遠い国であるため、日本のことをよく知らない人がほとんどで、中国や韓国と混同して捉えられることが多々あります。日本を多少知っている人でも、彼らの日本人に対するイメージは総じて勤勉・真面目といった世界中どこでも耳にするものです。その日本人がチュニジアでアラビア語チュニジア方言を用いてお笑いやコントをするという画は、チュニジア人にとって相当な衝撃だったことでしょう。ただ、私の芸能活動がそれまでの日本人のイメージを覆し、日本とチュニジアとの精神的距離を身近にしたという意味では、意図したものではないにせよ間接的に二国間交流に貢献した部分は少なからずあると自己評価しています。

市場にて、カメラが趣味の八百屋のお兄さんと記念撮影

現在

2018年4月からは、在チュニジア日本国大使館、草の根・人間の安全保障無償資金協力外部委嘱員として勤務しております。今度はテレビを通した二国間交流ではなく、国家間小規模無償資金協力という形での二国間交流に携わっております。ただ大使館勤務となった現在でも知名度は健在で、式典等の際に大使と同席しても私の方が目立ってしまうという気まずいことがあったりもします。

大使館業務の出張先で現地の人々と記念撮影

これまでのチュニジアにおける生活を通じて、人生は本当に何が起こるか分からないものだと実感しました。まったく思ってもみなかったことが起こったりするものです。また、人生の一時点において失敗や苦難だと思っていたことが、長い目で見ればそれが未来の成功に繋がっていることがあると学びました。ただチュニジア生活はもうお腹いっぱいになったので、今は日本帰国を考えています。

※ページの内容や掲載者のプロフィールなどは、執筆当時(2019年7月15日)のものです
【特集】「チュニジア体験記」高橋佑規さん
2019年9月4日
【特集・前編】「チュニジア体験記」高橋佑規さん